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WR1455 何か変だな、デフレの論議 (1) −デフレが深刻で、その対策として調整インフレを導入せよとの議論が、与党の幹部から語られるような状況にあります。また、国債の中央銀行(我が国の場合は、日本銀行)による引き受けまで行えと言う話が出ていると申します。これは、歴史の経験から、絶対してはならないとされていることで、法律上も禁止されています。さらに、さる大臣は、デフレは優れて貨幣的現象である、つまり通貨供給量を増やせば解決する問題だと公言しているようです。果たして、そうと言えるのでしょうか。

(2003/2/11)

元国土庁審議官:仲津真治



デフレが深刻で、その対策として調整インフレを導入せよとの議論が、与党の幹部から語られるような状況にあります。また、国債の中央銀行(我が国の場合は、日本銀行)による引き受けまで行えと言う話が出ていると申します。これは、歴史の経験から、絶対してはならないとされていることで、法律上も禁止されています。さらに、さる大臣は、デフレは優れて貨幣的現象である、つまり通貨供給量を増やせば解決する問題だと公言しているようです。

果たして、そうと言えるのでしょうか。もとより、物価が持続的に下落したり、逆に上昇していく現象に、通貨や金融が関係のあることは疑いを入れませんが、現に起きているデフレには、実体経済から来る要因が大変大きいと思われます。この機会に論じてみたいと思います。

1 世界に広がる工業化

まず、考えるべきは、冷戦終焉の前後から進み始めていた、グローバルな工業化の進展です。

冷戦の終了は、世界の市場を一挙に大きくするとともに、工業力の大きな拡大をもたらしました。旧東欧などに蓄えられていた工業力は、旧ソ連の支配によって歪められ、閉じこめられていましたが、冷戦が終わると、一時的な混乱と停滞の時期を過ぎてから、旧西側の先進国の投資が行われ、その製品を世界のマーケットに、供給し始めました。そして、その価格水準は、当然、旧西側諸国より低いものでした。

また、以前から、いわゆるNIES、そして、それに続くASEAN諸国の工業化は、市場と供給力の拡大に貢献していましたし、メキシコやブラジルに代表される中南米の工業化も次第に進展しておりました。 

2 中国の参入

ここに、さらに、中国が加わって来ました。中国の工業化は、毛沢東体制が終焉を迎えた後に導入された、1978年頃からの改革・開放政策に始まりますが、冷戦終了の前後から、日本を初めとする外資、華僑などの投資が本格化して、急速に進展して参りました。それは、社会主義市場経済と呼ばれていますが、そういう理論と言うより、ただ現実が在ると言われております。この中国経済は、外国・華僑の投資による産業の伸張のみならず、 コピー商品を自前で作れるまでに、工業力を発展させて参りました。

この中国では、他の諸国の工業化と違うことが起きてきました。それは、膨大な人口ゆえに、工業化が進んでも、次々と働く人が現れて、賃金が上がらないと言う現象です。工業水準の高い日欧米に旧東欧・ソ連を併せても、その人口は十億人程ですが、中国は一国で13億人を超えています。人類は、かつてこれだけの人口規模の国の工業化を経験したことがありません。史上初の事象が、今この地上に起きているわけですが、中国の工業化は、その意味で、これまでのものと違う異質なものを持っているのです。

中国の極めて低い賃金水準のもとで、外から先進のノウハウと資本が投入され、さらに自前の工業化が進み、しかも賃金水準があまり変わらないとなれば、そこで生み出される工業製品が安いのは当たり前です。これが、世界へどんどん輸出されるようになり、各国の工業製品の価格を押し下げるようになりました。そして、日本はその最大輸入国なのです。最近発表された統計によれば、昨年の日本の輸入相手国の一番手が中国になったとのこと、一昨年まではアメリカでした。

物価が下がるのは当然です。中国を初めとする世界的な工業化の進展がもたらしているわけですから、これは日本だけの現象ではありません。

そして、この中国始め発展途上国の工業化はまだまだ続き、さらに、中国の人口をいずれ追い抜くと言われるインドの工業化も進んで参ります。となると、世界は趨勢として、長期間にわたるデフレ時代に入ったといえると思います。

これは、人為的に通貨供給を増やして、物価を上げられるというような時代でないことを意味し、従来と異なる考え方と取り組みを要求している思われます。

3 デジタル時代に突入

世界的な工業化の進展と相まって、考えに入れなければならないのは、デジタル化の進展です。IT化という表現もありますが、より本質を捉える言葉がデジタル化だと考えます。

これは、世の中のいろんなことを0と1との数字に還元してとらえ、表す方法で、数字や計算はもとより、文字、絵、動画、音声など何でも表してしまいます。最近、臭いまで、これで捉えて表そうという動きが出ていると聞きます。まさに、驚きですね。 性質の異なったデータや事柄を、全部共通の方法で把握し、表現できる分けですから、すごいものです。

このデジタル化は、まず電子計算機の世界で導入、実用化されました。その恐るべき発展がパソコンを生み出すと、事態はさらに進展し、産業や学問の場だけでなく、日常の生活まで変えて参りました。デジタル化は、続いて通信の世界に導入され、コンピューターと結びついて、情報通信の凄まじい発展を生み出しました。通信は、人や物をそのまま運ぶ交通と異なり、情報を形を変えて送りますので、画期的な技術導入が可能であったと言われます。その一つである携帯電話の予想を超える普及と、その情報の質と量、精度の向上は目を見張るものがあります。 

デジタル化は、次は放送の分野で実用化となり、具体的なステップを踏み出していますが、いまや、社会全体に広がり、産業、生活、文化などを大きく変えつつあると言って、過言ではありますまい。

(何か変だな、デフレの論議(2)につづく)

(2003/2 原稿作成)


仲津真治:
http://kokoroisan.com/nakatsum/
昭和19年(1944)大阪に生まれる。 昭和44年京大法学部卒業後、建設省に入省、同省等に勤務、その間ハーバード大学に2年留学、修士。
茨城県課長、東京工大講師、埼玉大学客員教授、大阪府総括参事、建設省・国土庁・北海道開発庁で下水道、防災分野、総務などの課長を経験、平成8年国土庁審議官で退職。現在(株)ゼンリンの常務取締役。
「ハイブリッド国家日本の創造」(ヴォーゲル ハーバード大学教授との共著)(平成9年 ぎょうせい)、
「四季おりおり」(七五調雑詠集)(平成13年 講談社)、
随想集「土曜の夜更けに」(共著 平成14年 千代田フォーラム記念出版委員会)、
川柳集「相合傘」第二号(共著 平成14年 JDC)、
2001年 詩の旅」(CD付き)(平成14年 講談社)